今日の日記

2001年7月24日
東京グローブ座に『リチャード2世』という劇を見にいった。
シェークスピアの作品だ。

東京グローブ座では毎年、
『子供のためのシェークスピア』と言うシリーズを上演している。
シェークスピア作品を年毎にちがう演目で
わりかし分かりやすい解釈で劇にしているのだ。
『子供のための〜』という、いかにも子供だまし的な名前に反して
なかなか上質な演劇を見せてくれるので、僕はかなり気に入ってて、
ここ数年、毎年この時期には、
東京グローブ座に足を運んでいる。
ちなみに去年は『リア王』だった。

それで今年の作品が『リチャード2世』でした、と言うわけ。

あらすじとしては、
昔々イングランドの国にリチャード2世という王様がいました。
でも、リチャードは国政に無関心、
多くの家臣・国民の恨みを買っている。
ある時、リチャードが期限付きで国外追放処分に処した上、
財産を没収した王の従兄弟、ヘンリー・ボリングブルックは、
王がアイルランドに攻め入っている間に、
イングランドに上陸、
武力と政治力でリチャード王の領土を分捕ってしまう。
このヘンリー・ボリングブルックはなかなか有能な政治家で、
リチャードから王権を奪い取り、
ヘンリー4世として即位してしまう。
リチャードは幽閉され、獄中で死亡するが…。

とまぁ、シェークスピアにありがちな、
やたらスケールのでかい政治ドラマである。
シェークスピアの作品の中ではかなりマイナーな作品に入るらしい。
どっちかと言うと、この続編である『ヘンリー4世』の方が有名だとか。


とにかく、演出の仕方が見事だ。
かっこいい。
というか、『クールだ』と言ったほうがいいかもしれない。
くどすぎる、ということがない。
余韻をのこしつつも小気味いいテンポで
物語は進んでいく。

劇の始まり。
舞台は黒一色。
舞台装置らしきものは何一つ見当たらない。
奥の方に黒い布の垂れ幕のようなものが数本垂れ下がっているのが、
かろうじて確認できる。

風の音が聞こえる。
かすかに「ちゃっ、ちゃっ、ちゃっ…」というささやき声が聞こえたと思ったら、
全身を覆う黒マントと黒い帽子、黒い靴に
身を包んだ10人ほどの男女が机を運びながら、
体をゆすってどこからともなく登場する。
そのどこか厳かな感じに一瞬にして劇に引き込まれてしまうのだ。

唐突に物語は始まる。
王の家来どおしが決闘をはじめようとしている。
決闘自体は真面目なのだが、役者たちがどこかおちゃらけているので笑える。
始めはそんな感じで、
どんどんアドリブは飛び出るわ、劇中コントが意味もなく始まるわで、
なんかやたらおかしい。
役者たちも楽しそうだ。

そんなムードのなか物語は進んでいくのだが、
徐々に、展開に重みと深みが加わっていく。

そして物語の山場を迎える。
ヘンリーは、反逆によって王位を奪ったのだと言う国民の批判を恐れ、
国民の前でリチャードが自ら王冠を渡すよう命令する。
前半では権力をほしいままにし、威張り放題だったリチャードも
すっかり弱気になり、ヘンリーに服従の姿勢を示そうとするが、
しかし一方で王位への執着も捨てきれない。
かつての家臣、自分を裏切ってヘンリーの下に走った家臣たちの前で、
リチャードは絶望と悲しみ、未練の気持ちをあらわにする。

これが、この劇で一番長いシーンだった。
リチャードがかなり長いこと、独白を続ける。
残酷なシーンだ。

リチャードは言う。
『どうか私の最後の願いを聞いてくれ。
鏡を私に与えてくれ。
この哀れなかつての王が、どんな顔をしているのか、見てみたいのだ。』

弱者に成り下がった自分の顔を映したリチャードは、
鏡を頭にぶつけて割り、
むせび泣く。

王であったかつてのリチャードはそこにはなく、
ただ1人の弱い人間として、ひたすらあがきつづける。
人間の弱さ、醜さ、情けなさ、みたいなものを
まざまざと見せ付けられる。
目を背けたいけど背けることができないような
そんな感じだった。

貴族たちの権力争いによって、人間の本質を描く、
それがシェークスピアの劇、なんだと思うが、
今回の作品は特にその辺が強調されていた。
なんか見ていて、ひたすらきついシーンだった。

それだけに、シェークスピアの劇は相当の演技力が必要とされるのだと思う。
特にこのシーンではリチャード役の俳優の演技が
光っていた。
これだけ人間の醜さを表現するシーンだから
演じきるのはそうとう難しいと思うけど、
とてもいきいきと生の人間を演じていて、
すごかった。

他の共演者たちもみんな演技が上手で、
安心してみていられた。
このシリーズに出ている役者はもう何度か舞台で見ているので、
それぞれの役者のキャラもつかめてきているので、
余計に楽しめた。


この劇を見に行くことは、僕にとって、
毎年の夏休みのお楽しみ、みたいになっている。
肩がこらずに楽しんで見ていられるし、
演劇の世界の中にじっくり浸っていられる、
そんな感じがとても好きだ。
劇が終る時には『もう終ってしまうのか』とかって
かなり残念だった。

今年の『リチャード2世』は去年までに見た作品の中でも、
特に深みのあるシェークスピア作品だった気がする。
かなり深いところまで人間を追求していた。
すでに『子供のための〜』ではなくなっているのでは…、
と思うほど。
隣に座っていたかわいい女の子も
『ちょっと良く分かんなかったぁ。』とかって言ってたし。
でもそれだけ、終った後余韻に浸れて良かった。
幸せだった。

また来年も見に行きたいな。

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